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上部タグ未削除 編集する。 カウンター - 2021-12-08 19 04 10 (Wed) 選択肢 投票 この作品はネ申 (1) 良かった (6) 普通 (0) 微妙 (0) いまいち (0) 最悪 (0) ゼロの使い魔は、ヤマグチノボルによるライトノベル作品。 ゼロの使い魔登場人物 ゼロの使い魔用語 リンク内部リンク 外部リンク ゼロの使い魔登場人物 ゼロの使い魔の登場人物 ゼロの使い魔用語 ゼロの使い魔の用語 リンク 内部リンク ゼロの使い魔 [[]] 外部リンク 編集する。
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ツカイマピナ【登録タグ ID SAO ネーム指定 パワーパンプ 井澤詩織 絆の対象 身代わり】 autolink SAO/S20-054 カード名:使い魔 ピナ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1500 ソウル:1 特徴:《使い魔》?・《竜》? 【永】他のあなたのカード名に「シリカ」を含むキャラすべてに、パワーを+500。 【自】[このカードを控え室に置く]他のあなたのカード名に「シリカ」を含むキャラが舞台から控え室に置かれた時、後列にこのカードがあるなら、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、そのキャラをそのキャラがいた枠にレストして置く。 きゅる レアリティ:U illust. ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 《ビーストテイマー》シリカ 0/0 1000/1/0 赤 絆 冒険のはじまり シリカ 1/1 6500/1/0 赤
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ソエル フェンリル モルス パーシヴァル ヨルムンガンド キュベレイ サロメ ペルセポネ ハデス マルドゥク コノハナサクヤ ラー アジ・ダハーカ バハムート 設置要員 ヨルムンガンド・ソエル・アルカイザー 体力を減らしてフォースフィールドが純粋に強い。 ラー 神族で設置タワー折りや防衛をこなすのは大体この子。 素で防御+40、攻撃力上昇まで付いている。 最終メンバーに入れてもOK、ラー発動→ジェニー→アーリィと繋げば相手は何もできずに拘束される。 ペルセポネ 25マナで3秒間使い魔が死なない。戦闘力も高くAS上昇効果もある。 不死で設置なら間違いなくこの子 カリガリ博士・ガルファス・ディニ 実質ノーコスト設置、塔内侵入に、戦力補強に。 バハムート・オロバス・オーベロン・ポポイ POW上昇要因、オロバスはコストパフォーマンスが破格で、さらにAP回復まで付いている。 序盤オロバス設置+アジ・ダハーカは強力。ただしオロバスは強化対象が魔種限定なので注意。 キマ マナ節約に。 初手キマの海種デッキの場合、キマを一端戻してから設置する必要がある。 これが面倒で、手順は 1、帰還 2、キマをデッキに戻す 3、一度召喚陣から出る 4、キマを設置 5、召喚陣に戻って海種モンスターを召喚 という流れになる。 急いでいる時にこの作業を行うのは厳しい、そのため帰還前にキマが死滅している場合は適当な場所にキマを設置してから帰還すると良い。(死滅使い魔は設置することができる)
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『るいは智を呼ぶ』より花城花鶏を召喚 呪いの使い魔-01 呪いの使い魔-02 呪いの使い魔-03 呪いの使い魔-04 呪いの使い魔-05
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ギーシュは薔薇の杖でギアッチョを指して言う。 「何も知らない平民のためにあらかじめ言っておいてやろう」 何が何でも言葉でイニシアチブを取りたいようだ。聞かれてもいないのに ギーシュはべらべらと自分の力を喋る。 「僕の二つ名は『青銅』 青銅のギーシュだ 従って――君の相手はこいつが する・・・行けッワルキューレ!」 ギーシュが造花の薔薇を一振りするとその花弁が一枚宙を舞い、 ズォオォオッ!! 青銅の甲冑に姿を変じた。ギーシュはキザったらしい仕草で杖を下ろすと、 眼の前の平民がいかに驚くかを観賞しようとギアッチョを見るが、 「おもしれーもんだな」 と呟くギアッチョの表情には何の変化も起こらなかった。 「・・・ッ、平民が・・・!余裕ぶっていられるのも今のうちさ!ワルキューレッ!!」 自慢のワルキューレを前にして何ら取り乱さないギアッチョに、ギーシュは もういいとばかりにワルキューレを襲い掛からせた。 猛然とこちらに向かってくるワルキューレを見据えて、しかしギアッチョは 眉一つ動かさない。 ――ホワイト・アルバムを身に纏い、そのまま奴まで歩いていって直に発動 させる・・・オレがその気になりゃあ30秒もかからねーが、それじゃつまらねぇ こいつは「恐怖」と「屈辱」を存分に与えた上で殺すッ!! などとギーシュをいたぶる戦略を練っていると、 「ギ、ギアッチョさん!!逃げてくださいっ!!」 動かないギアッチョにシエスタが叫ぶ。しかし時既に遅し、ワルキューレはもう ギアッチョの懐に潜り込んでいた。そしてその右手がギアッチョの腹に―― スッ ドガシャアア!! 当たることはなかった。ギアッチョは引きつけたワルキューレから最小限の 動きで身をかわし、青銅の騎士はその勢いのまま地面に突っ込んだ! 「てめーの自慢の魔法はよォォーー この程度なのか?え?マンモーニ」 ギアッチョはギーシュに向き直ると、感情のないままの眼で彼を見る。 「一度攻撃を避けただけで何を得意になっているんだい?」 しかしギーシュもその程度で焦りはしない。自分のワルキューレはまだ何体も いるのだ。ギーシュは薔薇を振って更に2体のワルキューレを呼び出した。 二体の騎士は土を蹴ってギアッチョに向かって突進し、そっちにギアッチョが 気を取られている隙に、さっき倒れた一匹目がギアッチョの足に飛び掛って 引きずり倒す!・・・はずだった。しかしワルキューレが彼の左足を捕らえる 瞬間その足はスッと持ち上げられ、一体目はまたも惨めに大地へ倒れた。 続く二体目の突進を一体目をまたぐステップでかわし、その後をついて 走ってきた三体目は折り重なって倒れる先の二体にぶつかって動きを止めた。 オォォォ、とギャラリーにどよめきが走る。 「どーやらよォォ~~~ もったいぶった外見してやがるが・・・単に遠隔操作 出来るだけのスットロいデク人形だったみてーだなぁあぁ メローネの ベイビィ・フェイスの足元にもおよばねーぜ」 合間にギーシュを侮辱することも忘れない。とはいえ、普通の人間なら一体目の 一撃を腹に受けて一瞬でくたばっているはずだ。ギアッチョがそれを回避出来た 理由は、彼が幾百の修羅場を潜り抜けて来たからに他ならない。スタンドなど なくても、ギアッチョにはワルキューレの一挙手一投足が予測出来ていたのである。 ギーシュにはギアッチョが何を言っているのかよく分からなかったが、自慢の 騎士達をデク人形呼ばわりされたことだけは理解出来た。 「・・・少し素早いからと言って調子に乗らないでもらいたいね平民!!ここまで 頑張ったことは褒めてあげよう だがこれで終わりだッ!!」 いくら避けられるからといって魔法に平民が勝てる道理などないのだ。・・・と、 ギーシュはそう思っている。その自信から出た勝利宣言であった。 「漫画みてーな陳腐なセリフ吐いてる暇があんならよォォ~~・・・とっとと次の 手を披露してみろよ マンモーニよォォーー」 「まだ言うかッ!!行けッワルキューレ達!!」 ギーシュが造花の杖を、一回、二回、と振り下ろす。薔薇の花弁はそれに 合わせてひらひらと舞い落ち、彼の造花から全ての花弁がなくなると同時に、 更に四体のワルキューレが姿を現した。四体のワルキューレ達は主人を 守りつつギアッチョを囲い込むように布陣し、その間にいつのまにか 起き上がってきた最初の三体がギアッチョの後方を固めた。 「ああっ・・・囲まれた!!」 「ギアッチョぉ!!隙が空いてるうちに逃げ出せッ!!」 たまらず叫んだのはシエスタとマルトーである。しかしギアッチョは今度も動く 気配を見せず、代わりに首だけをひょいと彼女達に向けると、 「心配は無用だぜ それよりよォォーー ちゃんと見てろよマルトー! シエスタ! おめーも眼をそむけんじゃあねーぜ」 と言い放った。ギーシュは「遺言なら今のうちに言っておくことだね」などと喚いて いるが、全く意にも解さない。自分などここにいないかのように振舞うギアッチョに ギーシュの怒りはとうとう頂点に達した。 「もうッ・・・もういいッ・・・!!貴族を侮蔑したことを悔やみ・・・絶望に身をよじり ながら死んでいけッ!!!」 その言葉を合図に、全方位に布陣したワルキューレ達は一斉にギアッチョに 襲いかかり、シエスタ達の悲鳴をバックコーラスにその剣を振り下ろ―― 「ホワイト・アルバムッ!!」 ギアッチョがその名を叫んだ瞬間、全ては動きを止めた。ギャラリー達は―― ルイズやキュルケですら――目の前の異常な事態に声も出せなかった。 ギーシュは半ば状況を理解したのか、口をぱくぱくとさせているが――これも また声になっていない。 ギアッチョを取り囲んでいたワルキューレ達は、ギアッチョが何かの名前を 呼んだ瞬間、青銅と氷の彫刻と化して動きを止めた。そして輪になった オブジェ達の凍った頭部を、「何かに包まれた」ギアッチョの右腕が、一体、 また一体と粉砕してゆく。誰もが無言のままオブジェの破壊は続き、頭部を 失った哀れな人形達がまるで花を開くように外側に倒れていくのを破壊者は 色をなくした眼で見下ろし。ワルキューレだったものを踏み越えて、男が花の 外側へゆっくりと姿を現した時、 ギャラリーはパニックに陥った。 泣き叫ぶ者、もんどりうって逃げ出す者、呆然とその場に立ち尽くす者。彼らの 悲鳴と足音でヴェストリの広場は一瞬にして阿鼻叫喚の様相を呈した。無理も ない、男がやってのけたのは一瞬にして八体もの物体の動きを完全に停止 させるほどの氷結である。おまけに停止させたのはただの物体ではない。 「青銅」のゴーレムが「殺す気で」剣を振り下ろしているのである。それを 一瞬で完全に停止させて男は平然とギーシュを睨んでいるのである。彼らが 恐慌に陥るのも無理からぬことであった。 「あの男が・・・これをやったっていうの・・・?」 愕然としてギアッチョを見るキュルケだが、ふとルイズに眼を向けると、 「あいつ・・・こんな物凄い力を持ってたの・・・!?」 彼女もまた衝撃を受けていた。今朝の部屋ごと冷却事件の時点で気付くべき だったかもしれないが、とにかくルイズは今改めてとんでもない男を召喚して しまったと思った。常に無表情なタバサもこれには驚きを隠し切れないらしく、 わずかに眼を見開いていた。 「バカな・・・・・・ただの平民のくせに・・・・・・そんな・・・嘘だ・・・・・・」 ギーシュはうわごとのように否定を繰り返している。そんなギーシュに今の ギアッチョの関心は微塵も向いていなかった。 「青銅ってよォォ~~ 「青い」銅って書くんだが・・・実際の青銅は 大体緑色してんだよォォォーーーー なんで緑銅じゃあねーんだァァオイ!! ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜェ~~!!クソッ!クソッ!コケに してんのかッ!!ボケがッ!!」 またしてもよく分からないことを喚きながらワルキューレの残骸を踏み つけている。ギーシュはそれを見ながらぶつぶつと何か呟き続けていたが、 次第に我を取り戻すと自分はまだ負けてはいないということに気付いた。 花弁の無くなった杖を構えると、ギアッチョを睨んで叫ぶ。 「いつまで遊んでいるんだ平民ッ!!勝負はまだ全然ついちゃあいない!!」 そうとも貴族が平民に負けるわけがない!長年の間に染み付いた選民意識は そう簡単には変わらない。ギーシュはまだまだ勝てると思っていた。 「僕の魔法がワルキューレだけなんて思わないで欲しいね!!」 そう言い放つがいなやギーシュは呪文を唱え出した。 「くらえッ!石礫をーーッ!!」 言うがはやいか、ギーシュのかざした杖の先に出現した大量の石塊が ギアッチョめがけて降り注いだ! 「チッ・・・!」 ギアッチョは走って身をかわそうとするが、広範囲に撃ち出された石の雨は とても避けきれるものではない。石の一つがギアッチョの左足に直撃したッ! 「ぐッ!!」 石に片足をつぶされ、ギアッチョは思わず膝をついた。そんなギアッチョを 見下ろしてギーシュは今度こそ確信した。 「ハハハハハハハッ!どうだッ!!これが僕の力さ!!平民如きが偉そうに してくれたが・・・今度は僕の番だッ!!体中を穴だらけにしてやr」 「あーあー ちょっといいかギーシュさんよ 靴の紐が解けちまったみてーで よ・・・ 今から結ぶんで少々待っちゃあくんねーか」 もはや走ることも出来ないというのに、ギーシュの口上をさえぎってギアッチョは のんきに靴をいじりだした。 「こッ・・・この男・・・!!あの世で詫びろ!!喰らえ石礫ーーーッ!!」 キレたギーシュは石礫を跪くギアッチョ目掛けて発射し、 「全くよォォ~~ バカとハサミは使いようってやつだよなァアァ」 その瞬間ギアッチョは薄く笑って後方に飛びのいた! バガガガガッ!! ギアッチョを狙っていた石礫はその全てが地面に命中し、その衝撃で辺りは 土煙に包まれる! 「何ィィィーーーーッ!?奴はこれを狙っていたっていうのか!?な、何も見え ないッ!!」 土煙はギアッチョの姿を完全に覆い隠した。ギーシュはギアッチョのいた 場所から距離をとると、石礫をいつでも発射できるように呪文を唱えて杖を 構える。そして彼が呪文を唱え終る辺りで、 「さぁ姿を見せろ・・・お前は走れない、この一撃で終わりだ・・・ッ!!」 徐々に煙は薄れ・・・そして、ギアッチョが姿を現した!! ギアッチョは先ほどまでと殆ど変わらない場所に立っている。 ――何かをするつもりか・・・!? とギーシュは考えたが、 「しかしこっちのほうが早いッ!!」 ギアッチョが動く前に速攻で石礫を撃ち出した!!石礫は目にも留まらぬ 速さでギアッチョに飛来し、そして命中―― ギュインッ!! 「・・・何の・・・音だぁぁ~~!?」 ギアッチョは変わらずそこに立っている。そして何かの音だけが不吉に響きだした! ギアッチョはギーシュにだけ聞える声で答える。 「この煙がいい・・・おかげでギャラリーに姿を曝すことなく・・・一瞬だけ発動できた・・・」 バヂッ!!ギュイン ギュイン!! 「な・・・何の事だ・・・ッ!?」 ギュイン!!ギィンッ!! 「ジェントリー・ウィープスッ!スタンドパワーは使うがよォォ~~ いい感じに固定出来たぜ・・・」 ギィンッ!!ギュインッ!! 「だ・・・だから何の事なんだッ!!」 ギュイィンッ!!ギィィン!! 「眼をこらすんだな・・・てめーには見えないか?止まった空気が 見えないか!?よく見ろよッ!!」 バッギィィイーーーーーンッ!!! 「バッ・・・バカな・・・」 ドスドスドスドスドスドスドスッ!!! 「ガフッ!!」 飛来した無数の石の弾丸は、ギアッチョの周りに作られた凍った空気の壁に 遮られ、ギーシュ自身の元へと跳ね返ったッ!! 「反射魔法・・・!?ねぇルイズ!あいつ一体何者なのよッ!!」 キュルケはルイズに問い詰めるが、 「そんなこと私だって知りたいわよ!!」 ルイズにも答えることは出来なかった。ギアッチョのいた世界やその境遇などは 一通り聞いたが、ギアッチョの使っている能力については、「スタンド」という 名前であるということしか教えられていなかった。ルイズにも彼の力の正体は 分からなかったのである。冷静に戦況を見ていたタバサでさえ、ギアッチョの 「反射魔法」の正体は分からなかったのである。 「どんな感じだァ?てめーの魔法でやられる気分ってのーはよォォ~~」 ギアッチョは無慈悲にギーシュを見下ろしていた。ギーシュの全身には 血まみれの穴が穿たれているが、彼はまだかろうじて意識を保っていた。 しかしギアッチョは容赦をしない。おもむろにギーシュの首をつかむと、 グイッ!と持ち上げた。 「オレはてめーに言ったよなァアァーー・・・ 殺される『覚悟』は出来てんのか ってよォォォ え?どうなんだオイ『覚悟』は出来てんだろーなァァア!!」 「・・・う・・・うう・・・ ぼ・・・僕が・・・悪かった・・・謝る・・・き・・・君にも・・・ ルイズ・・・にも・・・ だから・・・た・・・助けてくれないか・・・お願いだ・・・」 その言葉に、ギアッチョの眼に明確な殺意が宿る。 「人をよォォ・・・殺そうとしておきながら・・・ え? 何なんだそりゃあ? まさかとは思うがよォォーーー 貴族だから殺されるはずがない・・・なんて 思ってたんじゃあねーだろーなぁあ」 ギーシュは朦朧とする意識の中で、必死に命乞いをする。 「・・・あ・・・ああ・・・思って・・・いた・・・ 僕が・・・悪かった・・・ だから 頼む・・・ お願いだ・・・死にたく・・・ないんだ・・・」 「人に道を作るのは『覚悟』だ・・・ てめーは負けて死ぬ『覚悟』がなかった ばかりか・・・ルイズに対して責任を取る『覚悟』すらねぇ・・・ 『覚悟』がない てめーはよォォーーー・・・! その命で責任を果たしてもらうぜェー!!」 ギアッチョはギーシュの首に力を込める! 「待って!やめてギアッチョッ!!」 声の主はルイズだった。ギアッチョはギーシュの首をつかんだままルイズを見る。 「何故止める?こいつは『覚悟』もなくおめーの命を侮辱した・・・ 償いは てめーの命でするべきだ」 「そうね・・・私は凄く悔しかったわ・・・だけどだからって殺すのは違うわ ギアッチョ、ここはあなたのいた場所じゃない・・・日々『覚悟』を持って 生きてる貴族なんかどれほどもいやしないわ あなたが思っているより ここはずっと甘くて怠惰な場所なの 常に『覚悟』と『責任』を果たさせようと するあなたはここでは異質な存在なのよ ・・・異質な平民の噂が宮中に 届けば・・・決闘だろうがなんだろうが関係ない あなたが何かをしでかす 前に 貴族を殺した罪で処刑されてしまうわ」 ギアッチョは色のない瞳でルイズを見つめる。 「・・・それに 私はギーシュに侮辱を償ってもらいたいんじゃないわ いつか魔法を使えるようになってこいつを見返してやりたいのよ」 それを聞いたギアッチョの双眸に、スッと色が戻る。そして、 ドサッ! ギーシュを投げ捨ててギアッチョはルイズに向き直る。 「しょーがねぇなぁぁ お嬢様の頼みとあっちゃあ仕方ねー これで 勘弁してやるとするぜッ マンモーニ!!」 ギアッチョがそう宣言すると、ギャラリーからどっと安堵の息が漏れ、 そして彼らを掻き分けるようにして派手な金髪の少女がギーシュに駆け寄る。 モンモランシーだった。
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アンリエッタ王女の命を受けアルビオンに向け急行軍を続けるルイズ達一行 ルイズ、ディアボロに加え、王女から同行を命じられたというワルド子爵、ついて来たキュルケ、タバサの5人は 港町ラ・ロシェールに到着するとアルビオン行きの船を待つ為、「女神の杵」亭に宿を取った (志願した筈のギーシュだが出発の朝に学生寮の外で足を折った状態で発見された為、残される事となった 秘薬を用いて治療した後、一行を追うという選択肢もあったが動いているディアボロを見て泡を吹いて卒倒した為、 それも断念する事となった) ディアボロは部屋のベランダに立ち、重なり合った二つの月を眺めていた アルビオン 空に浮く島を領土とし、魔法使いの始祖ブリミルの血統を継ぐ王家が統治する国 王に忠誠を誓った王党派と王に反旗を翻した貴族派(レコン・キスタと称しているらしい)が内戦を繰り広げている国 これから自分達が向かうのは劣勢に追い込まれている王党派の勢力圏だ 戦闘に巻き込まれる公算はかなり大きい そんな所にろくに魔法も使えぬあの小娘を守りつつ赴かねばならない 小娘の婚約者を称するあの髭男はそれなりの実力を持ち合わせている様だが信頼は出来ない 臭うのだあの男は、自分の為には何を犠牲にするのも厭わない、利己的な臭いが (まだ小娘を失う訳には行かん、今暫く時間は必要なのだ 文字、地理、歴史そして魔法、この世界について知るべき事は山の様に有る 特に魔法だ、まったくもって未知の技術体系、もしかしたら忌まわしいあの小僧のスタンドを解除する方法もあるかもしれん) 今は世界を知り足元を固めるべきなのだ、そう思えばこそ小娘の理不尽にも耐えてきた 絶頂に返り咲く為には忍耐こそが重要なのだ… 不意に月が翳った ディアボロが空を見上げると工事現場で見かける様な車両らしき物が月を隠していた 上には人影らしきものも見える 「キング・クリ…」 (な、何だ?体の動きがに…にぶいぞ) 勢いをつけて叩きつけられたそれはディアボロの居たベランダを巻き込みつつ宿を半壊させた ■今回のボスの死因 工事現場で見かける様な車両らしき物に押し潰されて圧死
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グゥゥゥゥ~~ッ 大きな音を立ててギアッチョの腹が鳴る。 「チッ・・・」 何も食べずに食堂を飛び出してきたのだ。腹が減るのは当たり前で ある。他に食うものがないというのなら、彼もあれを食べる事に抵抗は ない。しかし、あれがルイズ―主から出されたものだというのなら、 例え飢え死にしようが絶対に!口をつけるわけにはいかない。 ギアッチョはそう決意していた。 「しょぉぉおがねーなぁぁあ」 ギアッチョの口からは無意識に戦友の口癖が飛び出していた。実際の ところ問題は切実である。早いところ安定した食糧確保の方法を 考えなければ飢え死には免れない。 ――貴族のガキ共から日替わりでメシを奪うか? と思ったが、食堂には入りたくないし、毎日そんなことを続けていれば 間違いなく問題が起こる。 「プロシュートの野郎ならよォォーー 今ここで奴らを皆殺しにしそうな もんだが」 自分以上にキレっぱやいものはいないということに気付いていない ギアッチョである。 「あ、あのー・・・」 ギアッチョの後ろで声がした。 「ああ?」 色んな要因でかなり気が立っているギアッチョは、気だるげな声を 上げて肩越しに後ろを見た。 そこにいたのはメイド服を着た黒髪の少女だった。 「何か・・・用か?このオレによォォ~~~」 「す・・・すいません その・・・失礼かとは思ったのですが 食堂での お二人のお話を聞かせていただきました」 ――大人しそうなツラしやがってよォォーーー 堂々と盗み聞きって ワケかァァ~~? ギアッチョが発する殺気の量が更に上昇する。それに気付いたのか、 少女は慌てて本題を口にした。 「そっ、それでですね!あの、よろしければ厨房に来ませんか?賄い食 ですが料理をお出しします」 「・・・・・・」 ギアッチョは少女に向き直ると、その眼を覗き込む。少女はちょっと 驚いたようだったが・・・瞳に嘘は感じられなかった。 「・・・いいだろう 世話にならせてもらうぜ」 罠ではなさそうだ。ギアッチョは素直に好意に預かることにした。 「・・・こいつはうめぇな」 「貴族の方々にお出しする料理の余りで作ったシチューなんですが、お口に 合われたならよかったです」 「ああ マジによォォ~ 助かったぜ ルイズのヤローに出されたエサは ブチ割っちまったからな・・・」 「凄い握力なんですねギアッチョさんって・・・ 私ビックリしました」 どうやら、シエスタにはトレイ自体は見えていなかったらしい。単純にトレイを握り つぶしたのだと思っているようだった。 「ところでよォォーー 何故オレを助けた?」 ギアッチョにはそこが解らなかった。ルイズの物言いから察するに、ここでは 貴族と平民には絶対的な上下関係がある。今オレを助けたことで貴族――ルイズの 恨みを買う危険性もあったはずだ。するとメイドの少女――シエスタと名乗った―― はニコリと笑って言った。 「ギアッチョさんは平民でしょう?平民が平民を見捨てるような時代になってしまえば、 私達はおしまいです。貴族の圧政に耐えるためには、私達平民は常に団結して いなければならないんです」 ――何も考えてない小娘かと思ってたがよォォー・・・ ギアッチョは少し感心した。 「それに・・・ 貴族にあんなに堂々と逆らう人なんて初めて見たんです それが その・・・なんていうか 格好よくて」 シエスタは少し照れたように眼を伏せる。こう言われてはギアッチョも悪い気はしない。 「なるほどな・・・気に入ったぜェーーシエスタ! 改めて自己紹介するがよォォー オレの名はギアッチョだ ここに来るまでは、遠いところで暗殺稼業をやってたッ 気に入らねえ奴がいるならよォォ~~ いつでも暗殺してやるぜ」 「暗殺・・・!?ギアッチョさんて 殺し屋さんだったんですか!?」 普通なら、ここで殺人者に対する拒絶が心の中に芽生えるであろう。しかし シエスタは、というよりシエスタ達は違った。純粋に「凄い」と思ったッ! だって平民である。単なる平民がそんな凄まじい技量を持っている!シエスタと 話を聞いていた厨房の平民達は、そんな男が自分達の仲間であることに「誇り」と 「勇気」を感じた!! 「『我らの剣』ッ!オレぁおめーが気にいったぜ!!おら!こんな余りモンで よかったらいくらでもおかわりしてくんなッ!!」 マルトーというらしい四十がらみのコック長がガシッとギアッチョの肩を抱く。 厨房は一転熱気に包まれた。当のギアッチョはというと、これがまんざらでもない ようだった。ギアッチョが生きていた頃は、チーム以外の人間と親しくするなど ありえないことだった。知っての通りリゾットチームは暗殺を生業にしていたが、 その報酬だけでは毎月生きていくこともかなわなかった。ギアッチョを含めて メンバーはそれぞれが色んな表の仕事を転々として何とか糊口をしのいでいた のだが、彼らは暗殺に対する報復などに四六時中警戒しなければならない身で ある。敵の刺客はどこに潜んでいるか分からない。仕事仲間にさえも気を許す ことは出来なかった。彼らが心を許せる相手は、リゾットチームの仲間のみ だったのである。 ――ここは・・・違う ここではギアッチョはただの平民だ。暗殺者という職業、ボスへの反逆者という 立場、命を狙われる身という立場・・・、ここではその全てがリセットされている 事にギアッチョは気付いた。今、ギアッチョは真っ白だった。―もし。もし永遠に イタリアへ帰れないのなら。ここでの行動全てが――トリステインの平民としての ギアッチョの境遇を決することになる。それを理解したギアッチョは、自分が 突然何も無い宇宙の真ん中に放り出されたような眩暈を感じていた。 ――どォォォすりゃいいんだよッ!!!クソッ!!! ギアッチョは――自分がどうするべきなのか解らなくなってしまった。昨日、 ルイズはギアッチョを元の世界に帰す方法について、「私は知らない」ととても 悲しげな声で答えた。その声はまるで、そんな例は古今東西ありえないとでも 言外に告げているかのようにギアッチョに聞えた。 ――どォすりゃあいいんだッ!!ええッ!?教えてくれよッ!!リゾット!! プロシュート!!メローネ!!ホルマジオ!!イルーゾォ!!ソルベ!! ジェラート!!ペッシッ!!ええおいッ!!答えてくれよッ!!! ギアッチョがいくら問いかけても――彼らは答えてはくれなかった。 ギアッチョが心中凄まじい葛藤をしていたその頃、シエスタはルイズによって 厨房の外に呼び出されていた。 「・・・あ、あの・・・何の御用でしょうか・・・ミス・ヴァリエール・・・」 ギアッチョを厨房に招いていることは、ルイズにはとっくに気付かれていた ようだった。ルイズはうつむいたままシエスタに言う。 「・・・これからも あいつに料理を出してやってくれないかしら」 「えっ!?」 シエスタは驚いた。そもそもギアッチョ用にあの貧相極まる食事を出させた のはルイズなのだ。まさかギアッチョの剣幕に怯えたわけでもあるまい・・・ シエスタは内心首をかしげながらも、 「・・・分かりました、ミス・ヴァリエール。ご用命とあらば、喜んでお世話を させていただきます」 と答えた。ルイズは「よろしくお願いするわ」とだけ答えると、返事を待たず 歩き出した。ルイズは見ていた。厨房の窓から、馬鹿騒ぎする料理人達と その輪の中心にいるギアッチョを。 ――あいつの居場所は・・・私の隣じゃない ルイズは悲しげにそう呟いてその場を後にした。 ←To Be Continued?
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「わかってるさッ!僕だってこんなところで死ねないよ!ワルキューレッ!」 フーケの巨大なゴーレムの前に二体のワルキューレが現れる。 ルイズは男の上半身を自分たちの後ろに置く。 「あら?あなたは確か七体まで出せたはず…出し惜しみしてるなんて余裕ね」 フーケはキュルケとタバサの土人形を出し、向かわせる。 構わずワルキューレがゴーレムの脚部に突っ込む。 フーケのゴーレムが片方のワルキューレに蹴りをかまし、粉々に砕ける。 そこを上がっていないほうの足をルイズが呪文で爆破する。 「宝物庫を壊したときから不思議だったけれど…再生が遅いわ、なんの呪文なの…?」 フーケが呟く。 フラフラの状態のフーケのゴーレムに片方のワルキューレが突っ込み、フーケのゴーレムを押し倒す。 フーケのゴーレムは尻餅をついた形になる。 「錬金ッ!」 ギーシュがワルキューレと、ワルキューレの破片を錬金し、変形させる。 フーケのゴーレムの足を青銅で固定する。 丁度、フーケのいる位置の高さはワルキューレほどになる。 「これで、対等というところかしら?」 ルイズがフーケの召還する土人形をひきつけて、爆破する。 「私が上ッ!お前らが下だッ!!」 フーケは悪態をつき、石礫を放つ。 ルイズ達に正確に石礫は飛んでくる。 「この高さならァアアアッ!迎撃可能ゥウウウウッ!食らえ重機関砲をォオオオオッ!」 飛んできた石礫は粉々になり、破片が周辺に着弾する。 「どう、わかった?もうそのガラクタのゴーレムは乗り捨てて、大人しく投降しなさい」 「脚なんて飾りですわ!あんたらみたいな小娘にはわからないのね!」 青銅で固定されている部分を殴って破壊し始める。 「ま、こうなると思ってたわ、ギーシュ、残りも作戦どおり頼むわよ」 「はあ、こんな作戦だけどやるしかないのか」 ギーシュはちょっと落ち込みながらルーンを唱え、残りのワルキューレ五体を召還する。 その五体のワルキューレは四角形でフーケを囲み、一体だけ背後に一歩離れて立っていた。 男が口を挟む。 「フフ、そのような陣形で囲むのか、ワルキューレで五角形に囲むでは呼びにくい…この俺が名付け親(ゴッドファーザー)に なってやろう!そうだな、森の守り神という意味のソナタ・アークティカというのはどうかな!」 「その呼び名、その名前グーだね!ベリーグーだッ!」 「やれやれ、男ってのはこんなのばっかしなのかしら」 ため息をつきながら杖を振り土人形を爆散させる。 「やれやれ、なにかと思えばこんなちゃちな作戦かい、考えてることがわからないわね」 フーケのゴーレムは拳を振るい、正面のゴーレムから順に一撃で破壊していく。 男はうろたえる。 「う、うろたえるんじゃあないッ!ドイツ軍人はうろたえないッ!」 「うろたえてるのはあんただけよ」 しかし、ルイズは冷静と見つめている。もっともギーシュはワルキューレのあまりの脆さに呆然としていたが。 破壊した途端!そのゴーレムの頭部に入っていた燃料…小屋にあった暖炉に使われていた液体燃料…がフーケに降りかかる。 「臭いでわかるように燃料をぶっかけたわ…食らいなさい!私の爆発を!」 ルイズは杖を振る。 フーケは高らかに笑い出す。 「あはははは!なに考えてると思ったらそんなことかい!あんたら土くれのフーケをなめてるんじゃないの!」 ガソリンは次々と泥に姿を変える。 「液体の燃料なんて滅多にみないけど、しょせんは化石燃料!この程度の錬金、鉛筆の芯をボキッと折るようにできるわよ!」 ルイズの呪文が頬を掠める。 呪文は後ろの最後のワルキューレの顔面に着弾する。まだそのワルキューレは動けるようだが、攻撃の成果は期待できなさそうだ。 「やれやれ、最後は同士討ちかい?悲しいねえ、じゃあとっととあんたらを始末して…」 フーケは最後まで言葉を言い終えることはできなかった。 杖を落とす。 フーケは縛られていた。 「な、これは…ロープ!?いつのまに高所にいる私を縛ったの!」 そう…先ほどの五体のワルキューレの中にロープを仕込み、一体目から四体目までのワルキューレはガソリンを撒いて 気をそらしている隙に錬金しフーケのゴーレムに外側に落ちないよう突起に引っ掛けておく。 そして最後のワルキューレには両方の先端を入れておき、片方の先端を頭部、もう片方の先端を肩に入れておく。 頭部の先端には錘をつけておき、頭部を破壊すれば、片方の先端だけ落ちていき、フーケは縛られることになる。 ロープに簡易とはいえ縛られ、身動きができなくなり、ゴーレムから落ちる。 もうそれほどの高さではないため怪我はないが、そこにはルイズが立っていた。 「燃料といい、ロープといい、色々小屋から拝借しちゃって、ごめんなさいね さあ、土くれのフーケとはいえ、杖がなければなにもできないわよね?人間そっくりで話す土くれを 作るなんて…今思えば学校で襲われたときに助けたミス・ロングビルも土くれだったわけね。 …さあ、もう諦めなさい」 「そうね…確かにこのスタンド…ジャッジメントは魔法も干渉するし…魔法と同じように精神力が必要…」 フーケが、不適に笑う。 「だけれどもね、杖はいらないのよ!『ジャッジメント』!」 ジャッジメントがルイズに殴りかかる。 「あんたの…スタンド、って言うのね。実はほんの少し前にあなたみたいなのと戦う機会があってね、不運だったわね 杖を落としても使えるようだったから、手は打っておいたのよ」 後ろから叫び声が聞こえる。 最後に残ったワルキューレの胴体からだ。 「ギクシャクする脚もないがァァァァァ!おれの機関銃は完了ォォォォッ!そしてくらえッ!MP40機関銃をォオオオオッ!」 地面にいるフーケに向かって弾丸の雨が降り注ぐ。 後ろからとっさに攻撃され、ジャッジメントで致命傷になりそうなものは叩き落したものの、何発かの弾丸がフーケに突き刺さり、 フーケは痛みで気を失った。 * * * 「それにしてもあの作戦…まるで僕のワルキューレがかませ犬扱いじゃないか!一撃でやられる前提で作戦を立てるなんて!」 「実際そうだったでしょ、なによ、文句でもあるの」 「いや、でも…一つのワルキューレにロープの先端と錘、もう一つの先端、そして胴体に男を組み込んだ僕の錬金の上手さは 特筆すべきものがあったんじゃないかね?」 「だからどうだってのよ、私は作戦立てたのに土人形破壊で忙しかったのに、あんたは自分のワルキューレがやられる様を 呆然と見てただけじゃない。土なんだからあんた得意の錬金で分解できたでしょ?」 「う…で、でも僕が居なければこの作戦は…」 「消火終わった」 火をつけた森の消火に行っていたタバサたちが帰ってくる。 「それにしても、ミス・ロングビルが『土くれのフーケ』だったなんてね」 「意外」 「精巧で話す土人形を生み出すなんて恐ろしすぎるわよ…でもルイズ、私たちを人形とはいえ躊躇なく爆破したらしいわね。 あんたの図太さには呆れるわ。それに比べて私は繊細すぎわたね」 「タバサはともかくなんであんたの土人形を爆破するのにためらわなきゃいけないのよ」 「あら、ルイズとはいえ一応知り合いだから躊躇った私とは大きな違いですね、そんなんだから胸がないのよ」 「む、胸は関係ないでしょ!」 タバサが割って入る。 「起きる前に運ぶ。シルフィードに乗って」 「ああ、そうだった!早くしないと!」 ルイズたちは気絶したままのフーケを乗せる。 「ルフトバッフェ(ドイツ空軍)出身の俺でも竜には乗ったことなかった …だが我がドイツの空軍は世界一ィィィ!乗れんことはないイイィーッ!」 ギーシュが仮止めして一応五体満足な男が叫ぶ。 「きゅいーきゅいー…(怪我明けに六人は辛いのねー!)」 シルフィードがバタバタする。 「この怪我だと六人は辛いみたいだから、乗らないで」 「む、むう、まあしょうがないな……かなり興味があるが…」 「あとでまともな土メイジも送る」 シルフィードが飛び立とうとする。 「そうか、配慮感謝する…そして、金髪の少年と桃色の少女!貴様らには危ないところを助けられた、我が ドイツの軍人ならば鉄十字章の申請をするところだが…生憎ここはドイツではない…感謝しかできなく、すまない」 飛び上がったシルフィードに男はいつまでも右手を斜め45度に掲げていた。
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翌日の天気は快晴だった。明けきったばかりの文字通り雲一つ無い蒼穹から、 暖かな陽光が降り注いでいる。絶好の探検日和、と言えるかもしれない。 まだ授業も始まらない早朝、ギーシュは自室で向こう数日分の大荷物をパンパンに 詰めた鞄を手に唸っていた。 「ぬぬっ・・・どうにも重い・・・今までレビテーションに頼りすぎてたな」 手に持った瞬間から苦しげな顔を見せながら、それでも魔法を使わないことには 無論訳があった。今回の小旅行――と言ってしまってもいいだろう――の目的は、 まず第一に探検であるわけで・・・つまりは人跡未踏の森林や遺跡の奥深くに まで足を踏み入れる可能性がある。となれば、そこを根城にしているであろう オーク鬼やゴブリンといった好戦的な化物に襲われることも覚悟しなければ ならない。よって、ここは出来る限り無駄な魔法の行使は控えるべきである ――ということがその理由であった。 両手で鞄を吊り上げて、ギーシュはよたよたと正門へ向かう。寮を出た所で、 「ギーシュ!」 待っていたようにそこに立つモンモランシーと出会った。 「モンモランシー!どうしたんだね、今朝はやけに早いじゃないか」 「ま、まあね・・・」 問い掛けるギーシュに、モンモランシーは何故か眼を逸らしながら答える。 「・・・ねえ、明日は虚無の曜日でしょ」 「確かそうだね それがどうしたんだい?」 「・・・・・・こ、香水の材料が切れたのよ それで、明日城下に買い物に――」 「おっと、すまない僕のモンモランシー そろそろ待ち合わせの時間だ」 「え?」 「ちょっと数日ほど旅行に行ってくるよ 君と会えないことを思うと胸が 張り裂けそうだが、どうか泣かないでおくれモンモランシー きっとこれは 始祖の与え賜うた試練なのさ」 「な、ちょっと・・・」 「名残惜しいがしばしのお別れだ 僕の無事を祈っていておくれ それではね」 「待っ――・・・!」 相変わらず人の話も聞かず、ギーシュは薔薇をかざしながらそれだけ言うと 荷物を抱き上げてそそくさと走り去ってしまった。一人この場に残されて、 モンモランシーは豊かな金糸を震わせながら呟いた。 「何よ、バカにして・・・!」 大荷物の人間を6人も乗せては、いかに風竜と言えど長時間の飛行は出来ない。 ましてシルフィードはまだ幼生である。必然、近場から順々に潰して行くことに なった。 一行が最初に向かったのは、打ち捨てられた寺院だった。もはや村であったこと すら判らない程に荒廃した廃墟にあって尚形を失わないそれも、しかしかつての 荘厳さはとうに消え失せ、今はただ物悲しい静寂だけが満ちている。 永久に続くかとすら思われたそのしじまを、突如響いた爆裂音が消し去った。 ルイズの爆破に、この村を廃墟に変えた魔物――オーク鬼の群れが寺院の中から 眼を血走らせて飛び出した。 「んだァ?豚の化物かありゃあ」 長らく手入れされず伸び放題に成長した大木の枝に悠然と腰掛けて、ギアッチョは 興味深そうに眼下を眺める。その横で、化物が怖いかはたまた落下が怖いのか、 シエスタがひしと幹に抱きつきながら応じた。 「オ、オーク鬼です 獰猛で人間の子供を好んで食べる・・・私達の天敵みたいな 存在ですね」 プリニウスやプランシーがこの場面に遭遇すればさぞかし眼を輝かせることだろう。 巨大な棍棒を手にし、申し訳程度に毛皮を纏い二本足で立つニメイルを越す豚の 魔物。妖異と非現実の極致。彼らで無くとも、ギアッチョの世界の人間ならば 誰もが眼を釘付けにされるであろう光景だ。 最初に出て来た数匹が、ギョロギョロと辺りを見回す。十数メイルの正面に一人の 人間を確認するや否や、 「ぶぎィいいぃいいィィイいいぃィッ!!」 耳障りな鳴き声を上げて突進した。その背後を、次から次へと現れる仲間達が 土煙を舞い上げながら追い駆ける。だが彼らのターゲットであるところの少女は、 逃げも隠れもせずにただ一人その場に棒立ちしていた。 そう、ルイズは囮であった。寺院の中に恐らく十数匹単位で潜んでいるであろう オーク鬼達をギリギリまで引きつけて、両脇の茂みに隠れるキュルケ達が 一網打尽にする。それが彼女達の作戦であった――のだが。 「ワ、ワルキューレ!突撃だ!!」 実物の食人鬼に恐怖したか、ギーシュがはやった。先頭のオーク鬼目掛けて 七体のワルキューレが一気に攻撃を仕掛ける。七本の長槍がオーク鬼の腹を 突き刺したが、厚い脂肪に阻まれて致命傷には至らなかった。 「ぴぎぃいぃぃいいッ!!」 「あっ!?」 狂乱したオーク鬼が棍棒を滅茶苦茶に振り回し、七体の騎士はあっと言う間に 粉砕されてしまった。そのまま槍を拾いワルキューレが出てきた方向へ突進 しようとするオーク鬼を、空を切って飛来した炎が焼き尽くす。一瞬遅れて 出現した氷の矢が、崩れ落ちた魔物の背後に控える数匹の身体を貫いた。 「・・・で?どーするのよ」 茂みから姿を現して、キュルケが投げやりな口調で言う。先の攻撃に警戒を 強めたオーク鬼達は、再び寺院の中へと隠れてしまっていた。 「と、突撃あるのみだよ!」 「バカ、メイジだけで敵陣のど真ん中に突っ込めばどうなるか解るでしょ!」 「うっ・・・」 本来護衛とするべきワルキューレを使い果たしてしまったギーシュは、ルイズの 指弾に反論出来ずに呻いた。 「寺院ごと燃やすわけにはいかないし・・・このまま篭られちゃあ打つ手が 無いわよ」 小さく溜息をついて、キュルケが意見を求めるようにタバサを見た瞬間、 「・・・来る」 いつもの無表情にほんの僅か警戒を滲ませて、青髪の少女は静かに杖を構えた。 その刹那――鋭い破砕音を上げて、寺院の三方に設えられた窓が同時に破られた。 「なッ!?」 扉を含む四箇所から、潜んでいたオーク鬼達が一斉に外へ飛び出す。集まっていた ルイズ達を、先程の七倍はいようかという魔物の群れが見る間に包囲して しまった。 「し、しまった・・・!」 「・・・形勢逆転」 「飛ぶわよッ!!」 一瞬の機転で、キュルケはルイズを抱き寄せて叫ぶ。同時に唱えたフライで、 必殺の間合いに入る寸前に彼女達は間一髪上空へ脱出した。 そのまま十数メイルの距離を開けて着地するルイズ達目掛けて、オーク鬼の 群れが猛然と走り出す。 「ルイズ、足止めをお願い」 タバサは顔をオーク鬼の集団に向けたままそれだけ言うと、間髪入れずに詠唱を 開始した。 「分かったわ」 自分を信用し切ったその行動に、ルイズは逡巡無く答える。小さな杖を突き 出して、次々と爆発を放った。 「ぶぎぃいいッ!!」 眼前で前触れ無く起こる爆発に、オーク鬼の足が鈍る。致命傷を与える程の 威力は無いが、足止めには十二分に効果を発揮した。 最短のコモン・マジックで、壁を作るようにルイズは休むことなく弾幕を張る。 クラスメイト達心無い者が見ればそれは失笑を誘うような光景だろう。しかし、 ――・・・それが何だって言うのよ 今のルイズに恥ずかしさや後ろめたさは微塵も無かった。たとえ失敗であろうと、 自分の魔法が仲間の役に立っているのだ。化物の大群を前にしても、その事実 だけでルイズの心には無限に勇気が湧いて来る。 やがて、ルイズの横で二つの魔法が完成する。オーク鬼の群れ目掛けて、 タバサのウィンディ・アイシクルが空を裂く音と共に驟雨の如く降り注いだ。 無数の氷柱に貫かれ、数匹のオーク鬼は声も上げずに絶命する。怯んだ魔物達に 畳み掛けるように炎の渦が押し寄せ、更に数匹を焼き払った。 「あっ・・・お三方とも凄いです」 老木の枝からおっかなびっくり身体を乗り出して言うシエスタに、ギアッチョは 仏頂面を変えずに応じる。 「いや」 「えっ?」 「いいセンいっちゃあいるが・・・間に合わねえな」 よく解らないながらも、シエスタはギアッチョに向けた顔を荒れ果てた庭に戻す。 その僅かな時間の内に、そこは様相を変じていた。 「――――っ!!」 ルイズ達は思わず耳を塞ぐ。残る十匹余りのオーク鬼の怒りの咆哮が、彼女達の 鼓膜を破らんばかりに廃墟中に響き渡った。 仲間を倒されたオーク鬼達の怒りは、今やルイズの爆破への怯えを完全に 上回っていた。手にした木塊を振り回しながら、聞くに堪えない叫び声と共に 怒涛の勢いで突進する。もはや一匹たりともルイズの爆破に気を留める者は いなかった。 「くっ・・・」 倍近く速度を増して迫り来る魔物の群れに、キュルケは僅か眉根を寄せる。 見誤っていた。敵が予想外に強靭で想定の七割程度しかダメージを 与えられなかったこともあるが、それにも増して埒外だったのは―― オーク鬼達のこの速度だ。逃走しながら呪文を唱えてはいるが、この距離と 速度では魔法は撃てて後一度――しかしその一度で殲滅出来る可能性は相当に 低い。だが、かと言ってレビテーションで逃げることは出来ない。「風」の フライと違い、コモンであるレビテーションは物を浮かせるというだけの単純な 魔法である。フライのような瞬間的な加速の出来ない性質上、高く浮かぶには 時間がかかる。今から方針を変えていては間に合うものではない。そして フライによる脱出もまた、系統魔法であることとキュルケとタバサしか使用 出来ない現状では難しいと言わざるを得ない――結局の所、望みに賭けて このまま攻撃することが最善の、そして唯一の手段であった。 「・・・イス・イーサ・・・」 タバサも同じ結論のようだった。小さな口から迷わず紡がれる呪句で、彼女の 無骨な杖に再び冷気が集まり始め、 「・・・ウィンデ」 冷たく小さな声が止むと同時に、無数の氷の弾丸が一斉にオーク鬼へと撃ち 出された。それを確認してから、キュルケは小さく杖を振る。氷柱の軌跡を 追いかけて、業火の螺旋が続けざまに忌むべき魔物の群れを襲った。 氷と炎が爆ぜて巻き起こる黒煙と砂埃が、オーク鬼達をその断末魔ごと覆い 隠す。しかし、油断無く後退を続けるルイズ達が僅かな期待の視線を煙幕に 向けるよりも早く――オーク鬼の残党が四匹、憤怒の咆哮を撒き散らしながら 姿を現した。 生き残った四匹の人喰い鬼達は、更に速度を増してルイズ達に襲い掛かる。 「く、くそっ!」 なけなしの魔力で作り出した青銅の槍を構えて、ルイズ達の前にギーシュが 飛び出した。しかし、その力の差は誰が見ても歴然である。血走った眼を ギーシュに向けると、オーク鬼はまるで路傍の石を排除するが如き気安さで 棍棒を振りかぶった。 「ミ、ミスタ・グラモンが・・・ギアッチョさん!!」 シエスタは悲痛な声でギアッチョを振り向く。だが数秒前まで彼が座って いた場所から、ギアッチョの姿はいつの間にか消えていた。 三匹のオーク鬼達は、一体今何が起きたのか理解出来なかった。自分達と先頭の 仲間との間に、「何か」が落ちた――次の瞬間、仲間の首は見事に胴体と泣き 別れていたのだ。必死に情報を整理しようとする自分達を嘲笑うかのように、 仲間の首を刎ねた「何か」はゆっくりとこちらに向き直る。その正体が人間で あると気付いた時には、更に二つの首が宙を舞っていた。 「ぶぎィィイイイイッ!!!」 最後の一匹になった化物が、あらん限りの咆哮で大気を震わせる。男が一瞬 眉をしかめた隙を逃さずその脳天に人の胴体程もある棍棒を振り下ろしたが、 男は身体を半身にずらして難無くそれを回避した。同時に剣を握った左手では 無く何も持たない右手を突き出すと、静かにオーク鬼の胸に押し当てる。理解の 出来ない行動にオーク鬼は思わず動きを止めたが、すぐに棍棒を持つ腕に再び 力を込めた。理解は出来ないが、殺すことに問題は無い。 「・・・・・・?」 オーク鬼は漸く気がついた。拳に力を込め、手首に力を込め、腕に力を込め。 男の頭を粉砕するべく腕を振り上げる――常ならば意識することすらしない、 単純な動作。ただそれだけのことが、どう意識しても「出来ない」。まるで 彫像にでもなったかのように、己の腕はピクリとも動こうとしないのだ。 …いや。腕だけでは無かった。気付けば腰も、足も、そして首も―― 五体全てが、凍ったようにその動きを止めていた。 「・・・・・・!!」 凍ったように? 否。 オーク鬼の身体は文字通りの意味で、いつの間にか完膚無きまでに凍結 されていた。そしてそれに気付いた瞬間。原因や因果を考える暇も無く、 オーク鬼の身体は粉々に砕け散った。 「あ、ありがとう・・・助かったわ」 血糊を拭いた木の葉を投げ捨てて、ギアッチョは少しばつが悪そうにして いるルイズ達に向き直った。 「そんな顔すんな おめーらに落ち度はねぇよ 悪ィのは・・・」 つかつかと歩み寄ると、ギーシュの金髪に容赦無く拳を振り下ろす。 「あだぁあっ!!」 「こいつだ」 「このマンモーニがッ!おめー一人のミスでよォォォ~~~~、全員殺られる とこだったじゃあねーか!ええ?」 「うう・・・すいません・・・」 地面に正座するギーシュの頭上から、ギアッチョの叱責が降り注ぐ。長らく 使われなかったマンモーニという呼称がショックだったのか、ギーシュは肩を がっくりと落とすが、ギアッチョは一切容赦をしない。 「フーケとアルビオンの時ゃあちったぁ見所があるかと思ったが・・・ おめーは追い込まれねーとマトモに戦えねーのか?ああ?」 「い、いや・・・それは」 「それは何だ」 「そ、」 「うるせえ!」 「酷ッ!」 ギアッチョは両手でギーシュの頭をぎりぎりと掴んで立ち上がらせる。 「あだだだだだ!」 「よォーーく解った・・・おめーには度胸と根性が足りねえ!」 「そ、それは追々身に着けていこうかと・・・」 「やかましいッ!帰ったら一から叩き直してやっから覚悟しとけッ!!」 「えええええ!?」 ギーシュが物理的に地獄に落ちることが決定した瞬間だった。 へなへなと地面にくずおれるギーシュに眼を向けて、三人の少女は同時に 溜息をつく。 「ま、これでちょっとは成長するかしらね」 「因果応報」 「・・・あれ?ところで何か忘れてない?」 「ギアッチョさーん・・・」 古木の幹にしがみつきながら、シエスタはか細く悲鳴を上げる。 「み、皆さーん・・・下ろしてくださいぃー・・・」 彼女が救出されたのは、それから十分後のことであった。
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最後の机を運び終えて、リキエルは息をついた。 時間は、昼休みまで一時間あまりといったところだった。リキエルがルイズに言ったように、そう時間はかからなかったことになる。 無論、リキエルは手抜きなどはしていない。爆発によるクレーターは如何ともし難かったが、その瓦礫はルイズがいる間に片付け終わっている。掃き掃除も、細かい塵は残っているかもしれないが、もともと綺麗なわけでもない教室なので、ざっと見ただけではわからないだろう。 新しい窓ガラスは、教室に運び入れたそのままで放置してあった。どうやって窓にはめ込むものか、リキエルにはわからなかったのである。何かしらのノウハウが必要なのかも知れず、あるいはメイジの仕事なのだろうとリキエルは思った。 ひとまず、これで仕事は終わりだった。御役御免というわけだ。 しかし、リキエルが教室から出て行く気配はなかった。自分で運び入れた椅子の一つに座り込んで、所在無げに鼻の頭をかいている。その姿は、先ほどのルイズに似ているようで、少し違った。 ルイズはずぶずぶと沈み込むようで、何かを堪えるようにジッと座っていた。対してリキエルは、根を生やしたように動かないのは同じだが、どこか虚ろで、放心したように座っている。リキエルは煩悶していた。 ――どうしてオレは……。 一人でこの作業をする気になったのか。そんなことをわざわざ言ってしまったのか。ルイズが訝しげにしていたように、納得のいく理由が、リキエル自身思いつかないのだ。気まぐれではなかった、とは確信しているが、そうすると余計に説明がつかない。 労働意欲に目覚めたわけでは勿論なかった。仕事を終えた今、リキエルに残っているものは充足感でも達成感でもなく、心地よい疲労感でもなかった。熱を持ったような肩の凝りの他にはただ、胸の奥に奇妙なもやがかかっただけである。 そしてこのもやは、考えてみるとしかし、仕事を終えて今初めて湧き出したものではないようだった。 ふと、「ないわ」と言ったルイズの顔が思い出された。葛藤とも困惑とも焦燥ともつかないものが、そのとき頭を駆け巡ったのをリキエルは覚えている。もやが生じたのはその少し後だった。そして、気づけばルイズを追い出すようなことを口にしていたのである。 ――追い出すだ……? 自らの思考にリキエルは一瞬疑問を抱いたが、直ぐにそれは消えた。むしろすんなりと、あるべき場所にあるべきものが落ち着いたようにさえ感じられた。 そこでハタと気づく。気づくというよりも、それは明確な答えとなっていた。自分は、ルイズを追い出すためにああ言ったのではないか。言葉を重ねれば、ルイズと同じ場所に居たくないと、そう思ったのではなかったか。 そしてそう思わせたものは、リキエルにとって、やはりある種馴染み深いものだったのである。 それは恐怖だった。闇夜に息を殺しているような得体の知れない恐怖とは違う、逆に、幾度も落ち込み底の知れた、よく見知った恐怖である。だからこそ、リキエルはそれに気づきたくなかった。無意識に、自分でも気づかないふりをしていたのである。 そして、これは恐怖であると同時に兆候でもある。その兆候とは、パニックに陥る際の兆候だった。リキエルがルイズを遠ざけたのは、それを過敏に捉えたためだ。この兆候が胸をよぎった理由も、既にリキエルはわかっていた。 ――これ以上は。 考えちゃあならない。昨晩ルイズの前でパニックを起こしたときと同様に、リキエルはそう思った。が、既に遅く、気づけばリキエルは大量の脂汗をダラダラと流し始めていた。リキエルの顔が苦悶に歪む。 ――やばい。やばいやばいまずい! 『このこと』については、『こいつだけは』考えちゃあならないんだ! わかってる、そんなことはとうの昔になァ。 ああくそ! なのに、チクショウ! ああ、わかっているんだ。ここまで来たらもう手遅れってことぐらいオレが一番わかってるんだッ! くそ、くそ! 考えるんじゃあない! まぶたは下がり、息は過呼吸気味に荒れる。歯を食いしばって呻いても、流れ出る汗は止まらず、むしろ、呻き声によって搾り出されているかのようだった。 胃袋に砂利が入っているような心地がする。 のど仏のあたりに泥を塗りこめられたような感触がある。 耳の後ろにライフル銃を突きつけられたかのように不安になる。 自分ひとりでは何もできないのだと絶望する。 こんな姿を誰かに見られたらと恐怖する。 ――チクショウ! ちくしょう! 苦しい、息が、くそ! 何も見えないぞ! いつにも増して酷いッ! まぶたが、下がって、何だってんだァ! 考えるな、考え……おおおおお!? 何も見えない。見えないのに眩暈がする。 息を吸いたい。息の吐き方がわからない。 頭痛がする。吐き気もだ。体がうまく動かない。 ――血統、家、笑われ、今まで、ゼロ、パニックを、諦めが、まぶた、汗が、動かねえ、苦しい、息、呼吸、カワイソーだとか、やばい、血筋、ふきたい、ゼロ、血統、何も、タオル、死ぬ、期末試験、呼吸が、意識、死ぬかも、意識、ディ、意識が、D、意識……。 リキエルは椅子から転げ落ちた。落ち方が悪く、体のあちこちを床に強かに打ちつけたが、リキエルはその痛みを感じてはいなかった。意識が朦朧とし過ぎたためなのか、感覚が鈍っているようだった。 「――……? ――!」 足音が聞こえた。呼びかけられているような気がする。なんだか耳に心地よい。 顔を上げようとする。上がらない。少し上がった。何も見えない。 体が冷えていくような感覚に襲われた。上唇にかかる自分の鼻息が、変に熱っぽく気持ちが悪い。 意識が暗がりへ転がる寸前、肩に乗った手の感触を、リキエルは感じた。 リキエルには母親がいなかった。 勿論、今こうしてのた打ち回っていたからには産んだ親がいる。だが、リキエルが物心ついたときには、既に母親の姿はなかったのである。何故いなくなったのかはリキエルも知らない。ただ、それが酷く悲しかったことだけは覚えている。 盥回し先の、親戚達の話を聞きかじったところでは、他所でできた男と逃げた挙句に野垂れ死んだだの、麻薬に手を出して厄介ごとに巻き込まれただの、挙句の果てには、奇病にかかって世にもおぞましい姿で死んだなどと言う者もおり、何れにせよ、わずかばかりも心ある話は聞かされなかった。 リキエルはそれらの話を信じていない。それは母親を信じたいという気持ちからではなく、親戚達が、控えめに言っても母親を好いていなかったらしいことが――子供が盥回しに合う理由など、金銭の話を抜けばこんなところである――わかっていたからだ。 リキエルは父親を知らなかった。 どころか、その親類縁者にすら、リキエルはお目にかかったことがなかった。母方の親戚達がその辺りの話題を嫌っているのは明々白々なので、あまり尋ねる気にもなれず、例え聞いても「知らない」「わからない」という答えが返ってくればよい方だった。 誰もが、答えたくないというよりも本当に知らないらしいということが――そのくせ、嫌な憶測だけはエラク自信あり気に語っていたこともあって――印象的だった。リキエルは幼心に奇妙に感じたものだ。 リキエルは暫く、ギクシャクとした関係の親戚の家を渡り歩き、歩かされた。彼ら、あるいは彼女達は、リキエルに暴力を振るいこそしなかったが、愛情を以って接してきた者もまたいなかった。 空気中に含まれる窒素のような扱いを受ける日々だったが、小学校に上がる頃には、一つの場所に落ち着くことができた。他人とほぼ同義な程に遠い親戚の家だったが、そのことが幸いしたものか、彼らはある程度の好意を以ってリキエルの面倒を見てくれた。 リキエルは、元気で明るいとはいえないが、それなりに普通の子供として育っていった。 だが、リキエルの生い立ちはやはり、少なからず彼の頭上に暗い影を落としていたとみえ、リキエル自身も気づかぬうちに、リキエルを少し歪ませていたのである。 その暗い影は、例えば友人の、両親に買ってもらった誕生日プレゼントが気に入らないとか、タバコなんか吸うんじゃあないと親父がうるさいのだ、とかいった手合いの話を聞いたときに色濃くなる。 その歪みは、例えば小学校の先生が、将来の夢はなんですか? と聞いてきた時や、熱心が過ぎて終始空回りしていた中学の教師が、やりたいことをやれ! と脈絡もなく語りだした時などに浮き彫りとなった。 リキエルは、およそ生きる希望や目的というものを、どこかに置き忘れてしまっていた。 それでも、リキエルはそのせいで絶望するということはなかった。むしろ中学に上がった頃には、年相応といえばそうだが、自分のやりたいことについて考えるようになっていた。そしてその答えが出ないとなると、何をするにせよ良い成績を出しておいて損はないだろう、という考えに至り、勉学に励むようになる。 しかしあるとき、その努力も水の泡と消えた。端的ながらルイズにも話した、16才の学年末試験での出来事である。 当時リキエルには何が起こったのか理解できず、原因は依然わからないままだ。起きたことをありのまま話すのであれば、集中し始めたら何も見えなくなった、とこれだけである。初めは周囲の人間も同情的だったが、すぐに『カワイソー』とか『知らんぷりして近づかないでおこう』といった、『我関せず』の態度を露にした。その態度はリキエルを追い詰め、息苦しくさせ、汗だくにした。結局、彼は試験科目のうち、半分を白紙で提出ことになった。 以来、リキエルは何がしかに強く集中するたび、まぶたが下りてくるようになった。 当然、ろくな結果は残らない。 自然、何事にも自信が持てなくなった。 はじめはまぶたが下りるだけだった症状が、晴れてパニック障害という、亀の餌にもならない名前を無駄に賜うことになるまで、そう時間はかからなかったが、リキエルがその名前を耳にしたのは、学校へ行かなくなってから暫く経ったある日のことだった。 20歳を迎える頃には、誰かにパニックの発作を見られるのが嫌で、一人暮らしをはじめていた。生きる希望は完全に失っており、人生そのものにまいってしまっていた。 時折、このままではいけないとアルバイトなどもしてみたが、一月と勤め上げたことはなかった。 移動に欠かせないものだからと、車両の運転もできるように頑張ってみたが、暫く乗れば事故を起こした。 失敗ばかりするうち、リキエルはどんなものに対しても、行動を起こす前から自信が持てなくなっていき、大小数多くのトラウマを抱えるようになる。ひどいトラウマに至っては、そのことに関する事柄を故意に忘れようと努めた。 中でも『自分の肉親』や『血筋』について考えをめぐらすことは、何よりもしてはならないことの一つになっていた。自分の親を知らないというその事実は、十余年を経て肥大し、リキエルの心に重く深く、捕鯨用の銛のように食い込んでいたのである。二、三度、そのことについて考えたことはあるが、重度のパニック発作に苛まれることになった。丁度、今先ほどのようにである。 リキエルはもう何もする気になれないでいたが、今年に入ってから、ふと、生活環境を変えてみようと思い立った。そして何かに引き付けられるようにフロリダを目指した。それから暫く経ち、三月も半ばになろうという時期になって、リキエルはようやく新天地フロリダでの、最初のアルバイトを手に入れたのである。 ◆ ◆ ◆ 学院長室を後にしたロングビルの足運びは、心持ち軽やかだった。 何枚捌いても変わり映えしない羊皮紙の群れから、いつもより少しだけ早めに逃げられたことが、彼女の足取りをそうさせているようだった。勿論ことあるごとにセクハラをしかけて来たり、冗談交じりに色目を使ってくるジジイから離れられたことも、ロングビルの足を軽くしている。 ただ、ロングビルの表情は晴れ晴れとしたものとはいえなかった。かといって暗い顔をしているわけでもなく、思案気な表情である。 ロングビルは、慌しく駆け込んで来たコルベールの様子と、珍しく――というよりも恐らく初めて目の当たりにした、オスマン氏の真剣さをたたえた表情を思い返している。それまでの醜態を取り繕うのに相当な精神力を割いていたとはいえ、それは印象深くロングビルの記憶に残っていたのである。 ロングビルはこの学院に来てから日が浅いが、その短い期間でわかったことの一つが、オスマン氏は食えない部類の人間だということだ。 どこからどこまでが本気で、もしくは冗談なのかわからないあの老学院長は、滅多なことではあんな顔はしないだろう。コルベールの持ち込んできた話は、それなりの重要性を持っていたとみて、まず間違いはないはずだった。 その上で、暗に席を外せと言われたときは、とぐろを巻き始めていた自分の好奇心が、ムクリとその鎌首をもたげるのをロングビルは感じたが、コルベールとオスマン氏が、漏れ聞かれることさえも憚るような話をするのだということもわかっていた。それだけに、興味を引かれたというだけで首を突っ込むことは避けるべきだと、ロングビルは思った。好奇心が殺すのは、何も猫に限らないのである。 ――それは。 さすがに言いすぎか。ロングビルは、自分で思ったことが可笑しくなった。 学院長室での二人の様子は確かに珍しくはあったが、それが陰謀めいた何かに結びつくとは思えなかった。自分の発想が飛躍気味になっているのにロングビルは気づいていたが、いささか飛びすぎた感は否めない。それで、悪い気もしないのが始末に悪かった。 漫然と流れるだけの日常に兆したちょっとした変化は、ロングビルの足取りだけでなく、少しだけ気持ちも浮つかせているのかもしれない。 「……」 ロングビルはツイと眼鏡を上げ、少しだけ足を速めた。 冗談めかしてものごとを考えられるほど、心に余裕が戻ってきたことは喜ばしいが、緩めすぎるのも考えもの、と思ったようだった。軽快な足取りは変わらなかった。 ほどなくして、ロングビルは教室に到着した。 オスマン氏の使った方便であれ、仕事は仕事である。むしろ方便や建前とは、表向きその通りに行動するからこそ、その役割を果たし得るのだ。秘書としても、仕事と言われればそのあたりはきっちりとしておかなければならない。 というのは建前で、ちゃっちゃと片付けてさっさと昼食をとりたい、というのがロングビルの本音である。ロングビルは、大きい割りに軽い扉を開いた。 そこで、違和に気づく。それは曖昧な違和感というよりも、明確な異変だった。 ――誰かいる……? 人の気配がどうのこうのどころの話ではなく、はっきりと、何かしらのうめき声が聞こえてくるのだ。荒い息遣いだった。苦しんでいるようでもある。 ロングビルは足音を殺し、机の影に隠れながらうめき声の主に近づいていった。 ただの人間のようだが、用心は必要だった。使用中止の教室でうめいている誰か。恐らく生徒ではない。教師ということはさらに考え難い。教室の修繕をしようなどと、殊勝な心がけをする者がいるとも思えなかった。となれば、これも考えづらいが、外部からの侵入者かもしれなかった。 万一そうなら、詰めている城の衛兵にも学院の誰にも気づかれずに、ここまで来たということである。目的やうめいている理由はまるでわからないが、その万一を念頭に置いて、怪我をすることはないはずだった。取り越し苦労ならそれでもよい。 「……」 意を決して、ロングビルは机の横から、うめき声の主を覗き込んだ。 しかし初めに目が行ったのは、教室の惨状だった。それなりに片付いてはいるようだが、教卓のあった場所はえぐれ、窓はそのほとんどが割れていた。吹っ飛んだとは聞かされていたが、ここまで酷い状況とは、ロングビルも思っていなかったのである。 それらをざっと見回してから、ようやく本題へと、ロングビルの目が向く。 ――……いた。でもこれは。 男が倒れ、もがいていた。やはり苦しんでいる。だが、その様子はロングビルの予想以上に、尋常なものではなかったのである。 もとの造形を著しく損なわせるほど顔は歪み、双眸がまぶたで固く閉じられている。パニックを起こしているようで、息は乱れに乱れている。立ち上がろうとひざ立ちになっているが、足に力が入っていないのは明らかだった。生まれたての馬のほうが、まだ力強さを感じさせる。 男の姿は、ほとんど滑稽と紙一重だった。 ――まずいわね。 直感的に、ロングビルは思った。男に対する所見である。目立った外傷が見当たらないことから、男の苦しみは、体の内側から来るものだろう。重病に侵されていることも考えられた。 何にせよ男の状態は、遠目には一刻を争うことかもわからないのである。迷っている時間は、あまりないようだった。 正味を言えば、ロングビルは面倒ごとは御免だったが、だからといって、男の様子をただ見ているというわけにもいかない。日頃からドライな空気を纏うロングビルだが、目の前で苦しむ人間を捨て置けるほど、情の無い人間というわけでもない。 人助けをして、悪いことがあるものか。ロングビルは自分に言い聞かせた。言い聞かせなければ動けないことが、自分の融通の利かないところかもしれないと、どこか冷めたままの頭で思ったりもした。 「どうしました……? 大丈夫ですか!」 警戒心はもう解れている。思うに任せて、ロングビルは見ず知らずの男に駆け寄った。 その声に反応したものか、錆付いた歯車のように緩慢な動きで、男が顔を上げた。それだけの動作が、男に大きな負担をかけているようだった。 肩に手を置いた途端、男の体から力が抜けたのがロングビルにはわかった。どうやら意識を失ったらしい。これで逆に、呼吸は落ち着くはずだが、男の顔色は一向によくならない。地肌が土気色の人間はそうそういるものではない。 男の喉に手を当ててみる。ひくひくと痙攣するだけで、うまく息が吸えていない。危険な状態だった。 「しっかりして下さい、気を確かに」 「グ……う、げぇ、かはっ、あが、まぶたが、クァ」 しゃがみこんで呼びかけると、ほどなくして男は息を吹き返したが、呼吸が早くも乱れ始め、うわごとを繰り返す。気を抜けば、またすぐに意識を失うだろう。まずは落ち着かせることが先決だった。 ロングビルは男の背をさすりながら、優しく語り掛ける。 「気を確かに持ってください。大丈夫、単なるパニックよ。すぐに収まるから、安心して」 「ぐ、うう、ハァ――、あが、がが、ハァ――」 「無理に息を吸わず、力を抜いて。そうです。ゆっくりと、浅くてもいいのだから、ゆっくりと吸って、肩の力を抜いて、大丈夫です。大丈夫だから」 「か……はァッが、クウぉ、ハ、クハァ、は、ハァ、ハァー」 次第に、男の呼吸が一定のリズムを保つようになった。顔も比較的穏やかなものになっていく。こうして見れば、男はまだ若く、自分とそう歳は変わらないだろう、とロングビルは思った。 「タオ、ルを……く、ハァー」 男は喘ぎながら、辛そうに唇を動かして、聞き取り難い声を発した。 「タオル?」 「貸して、くれないか」 男は酷く汗をかいていた。ロングビルは白いハンカチを取り出し、それでぬぐってやる。 「ハァー、ハァー、ハァ――……」 男は片方のまぶただけを上げ、顔色悪く「すいません」と言った。 「私は、この学院で秘書をしているロングビルという者です。……あなた、ここで何をしていたんですか?」 ロングビルは青年の呼吸が整うのを待ってから、鋭くそう聞いた。 見たところ青年は平民で、見覚えはなかった。つまりは侵入者で不審者だ。倒れているのを見てつい手を差し伸べてしまったが、それとこれとはまた別である。 ――まあ、でも。 これといって警戒が必要な相手でもない。のた打ち回ったときにできたのだろう、体のいたる所にある擦り傷に顔をしかめている様は、害があるようには見えなかった。ましてや丸腰の平民である。 青年は頭を抑えながら立ち上がった。ロングビルも腰を上げる。青年は少し猫背気味だったが、それでも頭半分ほど、ロングビルよりも背が高かった。ロングビルは、自然見上げ形になる。 「オレは、リキエルっていいます。え~、主人――がここをこんな風にしちまったんで、その片づけをしてたんスよ。だいたいは片付け終わったんだが、その後でなァ……」 リキエルはそれきり押し黙ってしまった。苦い顔になっているところを見れば、さきほどのような状況に陥った経緯を思い出しているのだろうと、ロングビルは思った。リキエルと名乗った目の前の青年は、そのことについてはあまり触れたくないらしい。 ロングビルはその話題は避けることにした。今重要なのはそこではなかったし、気になったこともある。 「主人?」 とはどういうことか。 「いや、まあ、なんて言うんだろうなァ、これは……」 またも歯切れ悪くなるリキエルに、ロングビルは少し眉をひそめたが、リキエルはそれには気づかない様子で、諦観めいた顔になって、溜息混じりに言った。 「使い魔をやってるんスよ」 「使い魔? ああ、あなたが噂の」 それで、ロングビルには合点がいった。 平民を呼び出した生徒の噂は聞いている。その話を聞いたとき、運のない話だとロングビル思ったが、当の本人を目の前にしてみると、なるほどこの男、顔の造形は決して悪くないが、薄幸そうなといえばまさしくそうだ。いま一つ締まらない印象を与えるのは、その幸の薄そうな面構えのためかもしれない。 「それは……大変でしょう」 「本当に、朝っぱらから洗い方も分からない、ややこしい服とか洗濯させられたりよォー。といっても、シエスタってメイドが手伝ってくれたんですが」 「シエスタですか。彼女は気立てのよい、優しい娘ですからね」 そのおかげで助かったってわけです、と言って、リキエルはもう一度溜息をついた。所作のひとつひとつが、どうにも覇気に欠ける男である。 とそのとき、溜息に触発されたものか、リキエルの腹が複雑怪奇な音をたてた。ぐう、ともぎゅる、ともつかない、本当に腹の音かも疑わしいような音に、ロングビルは目を丸くした。 「半日以上何も口にしてないもんで」 リキエルは忌々しげに腹をさすりながら、ぼそりと言った。 なんとも情けない顔をするリキエルを見ているうち、ロングビルは気が抜けた。さきほどのパニックのこともあいまって、ロングビルの目にはリキエルが妙に頼りなく映る。 手助けした手前もある。このままさようならというのは気が咎めた。 「一緒に行きませんか?」 「……? 行く?」 リキエルは疑念をこめて、開いている左目をロングビルに向ける。ロングビルはニコリともせず、しかし柔らかい口調で繰り返した。 「昼食ですわ。よければ一緒にどうかしら? 私もこれからなので」 「はぁ、なるほど。しかし良いんですか? 申し出は嬉しいんだが、なんか用事があったんじゃあないですか? わざわざここに来たってことはよぉ」 「いえ、様子を見て来いと言われただけですから」 できればということで、錬金での修繕も頼まれていたはずだが、このロングビル、そこらへんのことはきれーさっぱり忘れているらしい。あるいは、端から錬金で直す気などなかったのかもしれない。答えは彼女の眼鏡の奥深くである。 「遠慮は無用ですわ」 「助かるな、それならよォ」 そう言って首の後ろに手を置くリキエルはやはり頼りなげで、それが無性に可笑しくなり、ロングビルはリキエルに見えないようにして少しだけ笑った。 気持ちが浮ついている、とは思わなかった。